ただの会社員だった私がイラストレーターとしてハンズとコラボするまでの話

「私って本当に必要とされてるんだろうか・・・」

 

小さい頃からお絵かきや工作が大好きだった私は、高校、大学と美術の道へと進んだ。
しかし絵で生活していくにはとても難しいという話を聞いていた私は、結局会社員になった。
そこそこ大きな会社の人事課で事務や広報をしていたが、何年も勤めていくうちに同じ業務の繰り返しになっていく。できるのが当たり前の仕事が増えていく中で、謎の焦りや不安がまとわりつくようになった。

 

入社してから4年目の春、体調を崩す。
文字が読めなくなってしまったり、体が重く、満開に咲く桜をながめても全く心が動かない。絵と向かい合ってきて苦労してきたことはあったが、こんなことは初めてだった。

しばらくお休みをもらった。
何もできない自分に焦りや不安、罪悪感を背負いながらも、ベッドに鉛のような体を沈めることしかできなかった。

落ち込んでいるとき、愛犬の柴犬、ミミが寄り添ってくれた。
夫が病院まで付き添ってくれた。家事をしてくれた。
そんなあたたかさも、自分が何もできない裏付けである気がして余計無力感に襲われる・・・その無力感で何もできない、よくないループに陥っていた。

 

 

時は立ち、通院や周りの支えもあり、ベッドから何とか体を起こせるようになった。私は、リハビリも兼ねてしばらく描いていなかったイラストを気分転換として描いてみることにした。

ミミをモデルとして、ペンを走らせる。
喜んでいて耳がたれているミミ、散歩中他のわんちゃんが来たときにふせをして待ち伏せするミミ、おしりをこっちに向けてそっぽむいてるミミ・・・

ミミを描いて何日かがたったある日、友人から
「グッズとかハンドメイドを売るイベントに出たいと思ってるんだけど一緒に出ない?」と声がかかった。

今まで美術を勉強してきてはいたが、グッズを作ってちゃんと販売したことはない。
しかし、友人の誘いをきっかけに、私は柴犬のイラストをグッズにしてみようと思った。

 

結果、大盛況だった。
イベント会場の奥のスペースでテーブルにクロスをひき、ステッカーやトートバッグを飾り、イスに座っていた。
初めてのイベント参加だ、買ってはもらえなくても反応だけもらえれば十分だろうと思っていた。

その矢先、

「あっ、しりーぬだって!かわいい〜」
「これください!」

お金と商品を持っているお客さんが目にはいる。
動揺しながらも何とか会計をして、またイスに戻ったあとも、

「しりーぬ・・・」
「かわいい〜」
「あっ、柴犬!」
と次々リアクションをもらった。

元々の柴犬の人気もあるとは思うが、たくさんのお客さんに私の柴犬グッズは引き取られていった。

目に光が灯った気がした。

 

イベントから1ヶ月ほど経ったある日、夫の友人が経営しているコーヒーショップへコーヒーを飲みに行った。
私とも同い年の彼は、自家焙煎のコーヒーをドリッパーで丁寧に淹れてくれる。
イベントでの出来事を話す。コーヒー屋の彼は少し間を置いたあとゆっくりとそしてはっきりと、

「やってみたいと思ったなら、やってみた方がいいよ。」

と言った。私は会社を辞めようと思った。

 

 

会社を辞めたあと、どこか私の中でキリがついたのか、以前よりだいぶ体と心のバランスがつり合うようになっていた。
本格的に柴犬イラストレーター/デザイナーとして活動していくことにし、月1回以上のイベントへの出展、毎日イラスト更新、ライブ配信・・・できる限りたくさんのことをした。

2021年5月のデザインフェスタ。
グッズも最初のイベントの時よりたくさん増え、会社を辞めるきっかけをくれたコーヒー屋の彼ともコラボして、コーヒー豆やドリップバッグも出すようになった。

柴犬はもふもふで魅力的でかわいい。
その確信を持ちながらイベントを楽しんでいた。

そんな中、一人の女性が話しかけてきた。
しばらく質問に答えていたら、カバンから名刺ケースをとりだし、
「私こういうものでして・・・」

 

名刺には〝ハンズ〟の文字。
まさか、思って状況を飲み込むのに必死だった。

ハンズの女性はオンラインでキャラクターやクリエイターに特化したコミュニティをつくりたいと考えているとその想いを熱く語ってくれた。

新しいことに挑戦したい。熱意の目だった。
初めてイベントに出たあの日を思い出す。

こうして私はハンズと一緒にオンラインコミュニティ「キャレク」の一員になったのだった。

 

私のオンラインコミュニティ名は「らんまん!オーカタウン」に決めた。
はじまりを表す桜がシンボルの街で、みんなにコミュニティを楽しんでもらいたい。そう思ったからだ。

体調を崩したとき、桜を見ても心を動かすことがなかった私が、
今度は桜をシンボルにした街をつくろうとしている。

オンラインコミュニティになじみがない人も多いので入ってもらえるか不安も大きい。
しかし、やれるだけやってみたい。

私はみんなに必要とされてここまできたのだから。